ある友達が動画をシェアしてくれた。アメリカの若い画家が電車内で人をスケッチして、それを当人にプレゼントするまでを録画している。フォロワーが多いようだ。
しかし、見ていて変だと思った。
絵の描き方が異常なまでに丁寧で、鉛筆で隅々まで細かく陰影をつけている。そんなスケッチを電車内でできるのか?

それが実現するためには、1.描いている最中、モデルが動かない 2,モデルが途中の停車駅で降りない 3.作者とモデルの間に人が入り込まない という条件が必要である。しかもその条件が確実に満たされると保証されていなければ、安心して作業ができない。そうでなければストレスでしかない。
ところが、この画家の動画では驚くほどそれがうまくいっているようなのだ。絵が出来上がって、もらった人たちは一様にビックリし、喜んで絵を受け取っている。
そしてこの画家は、もともと自分は絵が描けなかったが、こんなに描けるようになった、みんなに喜んでもらうのが嬉しいと言う。

結論から言うと、これはフォロワーを増やすためのやらせだと思う。絵を描くことよりもYouTuberであることが目的なのだろう。でも、本当に絵を描くことが好きなら、こういうウソはやめてもらいたい。どんなに絵がうまくても、デッサン教室で描くようなスケッチを電車内で完成させることがそもそも無理だし、さらに、それをスマホで撮影するという煩わしい作業を相手に気づかれずにやるなんて不可能だから。
そして、そんなウソをつくことは、絵を描くことを楽しみたい人に対して、とても不誠実な態度だと思う。これは強調しておきたい。一見上手に見えるが現実には実現できない絵を見せてごまかす手法は、素人を相手にした詐欺行為と言っていいだろう。

僕は数年前まで電車内でスケッチをしていたことがある。ここに掲載した画像は10年前に描いたもの。繰り返しスケッチをしていて、短時間で対象を捉えるのがどれほど大変かを感じている。完成させることができずに終わるストレスが結構あって、今ではほとんど車内スケッチはしなくなった。
今は、公園とか建物内(先日の映画館のような)でならときどき描いている。絵が描けるようになるというのは、画材や環境や時間などさまざまな条件下で少しでもより良い形に描き上げる技術を身につけるということでもあるのだ。